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    Over the Trouble   - Part 6 -

                    written by Radical



戦自の陸戦隊の中にある移動指揮車。
「花嫁強奪犯捕獲本部」という張り紙のしてある車内から異様な高笑いが響きまくっていた。

「うはははははは!とうとう追いつめたぞ、碇シンジ!!」

無論声の主は捕獲本部長を自称している時田博士である。
ほとんどヒーローものの悪の首領のノリだが、彼はそんな事に気づいていない。
他にも指揮車の中には技術部の下士官達が忙しそうにしているが、 彼らは高笑いを続ける時田を黙殺し、自らの仕事に没頭している。
唯一人ケンスケだけが心配そうにモニターを見つめていた。
モニターの中のシンジ達は着々と戦自の陸戦部隊に包囲されつつある。
各部隊の兵達は携行食にかじりつきながら、突入の合図を待っていた。
別のモニターでは、”セカンド”の他、試作品である”ライト"までが持ち込まれ、 その状態が刻々と映し出されている。

「君」

高笑いを止めた時田が近くの隊員に声を掛けた。

「は?」
「全部隊に通達!ただ今より誘拐犯、碇シンジの捕獲を行う!!」



「戦自が動きます!」
シゲルが叫ぶ。

「・・・始まったな」
「・・・ああ」

ゲンドウの眼がスウッと細くなる。
二人とも何処と無く楽しそうだ。

「マヤ、ちょっといいかしら」

リツコがマヤの後ろから手を伸ばし、いくつかのプログラムに実行命令を出した。

「先輩、今のは?」
「ふふっ、おまけよ、おまけ」
目が笑っている。
「・・・たまには遊ばせてあげなきゃ、ね」

画面の隅では猫のキャラクターが嬉しそうにパタパタとしっぽを振っていた。



シンジには何が起こっているのか解らなかった。
彼らを包囲していた戦闘車両達が数台だけ動き出したと思ったら、 そのまま瓦礫の山に乗り上げたり、お互いにぶつかり合い止まってしまった。
中にはひっくり返り、煙を噴いているものもいる。

「な・・・なんなんだろう・・・」
「・・・さあ」

シンジもレイも首を傾げるしかなかった。



「どうした!?何があったんだ!?」
つい3分前までとは違う喧騒に移動指揮車は包まれていた。
「第二特車隊、応答しろ!第二特車隊!」
「軽車隊、沈黙しています!」
「白兵隊、応答しません!」

突入命令を出した途端、全部隊が機能しなくなってしまったのだ。
しかも外部と繋がっているモニターには、デフォルメされた茶トラの猫が欠伸をしている 映像しか映らない。
外部をモニターしようと操作すると

”11th Angel arrived! Have a nice day!”

という文字が延々と流れ続ける。

「博士!警備兵達も泡を吹いて倒れています!」

近くの部隊に連絡を取ろうとしていた下士官が戻ってきた。

「皆白目を剥いて、カレーパンを握り締めています」
「まさか・・・毒を盛られたのか」

そんなはずはない。あれは検査の結果、食品以外の添加物は見つからなかったはずだ。
時田は自問し、理解不能の恐怖にさらされていた。
パニック寸前の指揮車内ですっかり蚊帳の外にされていたMP隊隊長が短いうめきを上げて倒れた。
その手には携行食のカレーパンが握られている。

「隊長!」
部下らしい若い兵が助け起こそうとする。

「ま・・・まずい・・・こんなまずいものは・・・生まれて・・はじ・・め・・て・・・」
鬼と呼ばれ恐れられたMP隊隊長はそのまま白目を剥いて昏倒してしまった。



「どうやら効いたようね。ミサト特製スペシャルカレーパン」
リツコが満足そうに呟いた。
「後遺症はないし、天然素材しか使っていないし。まさに自然に優しい化学兵器だわ」

ミサトはあさっての方を向いて頭を掻いている。

「本格的に製品化してみる?」
「だめよ、あの味はミサトでないと出せないんだから」
アスカも意地悪く言う。

「そ、それよりも戦自の連中、予想以上に混乱してない?」
「ああ、さっき『おまけ』を送っておいたからよ。 すべてのネットワーク端末が制御できなくなっているはずだわ」

一層満足そうに微笑む。

「クラッキング?」
「違うわ。『チャトラン』よ」
「ちゃとらん?」
あら、教えていなかったかしら?とリツコ。
「第11使徒を覚えている?」
「・・・NERVを自爆させようとした、あれ?」
「そう」
「あれって確か進化を促進させて自滅させたんじゃ・・・」
「進化の行く末は確かに絶滅に繋がるわ。でも進化の過程においては変異種も現れるの」
「・・・それって、まさか」
「ええ、変異種はMAGIとの共生の道を選んだわ。今でも元気に活動してるわよ」
「なんですって!!」
ミサトは思わず大声を出すが、リツコは平然と続ける。
「あら、いい子達よ。『イロウル』なんて無粋な名前だったけど。猫のキャラクターに してあげたら気に入ったみたいで。だから今は『チャトラン』って呼んであげてるのよ。 かわいいでしょ」

モニターの隅では今も茶トラの猫のキャラクターがぱたぱたとしっぽを振っている。

「ただの居候じゃないのよ。立派に仕事も手伝ってくれてるわ」
「し、仕事って・・・」
「第3新東京市の都市管理よ」

ちなみにカヲルの職場も都市管理部門である。
そのことに思い付いたミサトは唖然としていた。

「使徒迎撃のための都市が・・・使徒に管理されているなんて・・・」
「あの子達、平和主義者なのよ」

平和主義者の使徒・・・。
かつて死闘を演じた使徒達が、手をつないでフォークダンスに興じている姿が浮かんでくる。
へたり込んでしまったミサトが立ち直るには、まだしばらくの時間が掛かりそうだった。



「・・・出すぞ」
いまだパニックの渦中の移動指揮車の中、時田は怒りをこらえていた。
万全、と言うより過剰なまでの体制で臨んだ計画が、たかがカレーパンでもろくも崩壊したのだ。
理不尽と言っても良いかもしれない。
しかし全軍が行動不能なのは事実であるし、ここまで来た以上、後に退く訳にもいかない。
ここで退いたら自分に未来はない。形振り構ってはいられないのだ。

「『ジェット・アローン・セカンド』起動!」

誰も気づいてはいなかったが、すでに車内にケンスケの姿はなかった。



シンジ達の前方に見えるひときわ大きなトレーラー。
それがゆっくりと動きはじめた。
荷台が起き上がり、被せられた幌が滑り落ちていく。
そこには彼らの忌まわしい過去が鎮座していた。

「あ・・・あれは・・・」

シンジもレイも、視線を奪われたまま逸らす事さえできないでいた。
何で・・・あんなものが・・・。
この地上にはすでに存在しない、いや、存在してはいけないものだ。
それはその巨体をわずかに震わせると、トレーラーから降り立った。
闇に浮き上がる純白の体躯に合わない、爬虫類を思わせる風貌。
眼はなく、人を嘲笑うかのように歪んだ口元。
記憶に残る姿とは所々違うが、その姿はあの日の悪夢を呼び覚ますには十分だった。
それは背にしまわれた羽を伸ばし、わずかに宙に浮きあがると獣のような咆哮を上げた。

「エヴァンゲリオン・・・量産機・・・」
「・・・」

戦自の侵攻、純白の堕天使。
あの日の再来を思わせるには十分なシチュエーションだった。


Please Mail to Radical <radical@pop01.odn.ne.jp>



作者Radicalのたわごと:
またもや長い事お待たせしてしまって申し訳有りません。
いよいよクライマックス突入しました。
書き始めたときには考えてもいなかった展開!本当にまとめる事ができるのか?
今回主役の二人は見ているだけだったし・・・。
思い付いたままに書いてしまう愚かな作者に、叱咤激励のメールを!
とりあえず、乞うご期待。


mal委員長のコメント:
m(__)mm(__)mm(__)mm(__)mm(__)m こちらもmalの大サボリのあおりで(爆)一月半も
公開が伸びてしまいました、本当に申し訳ないm(__)m
感想ですが(汗)、ついに炸裂ミサト特製カレーパン(爆)、「チャトラン」には大爆笑(^^;
復活のJA・・かと思ったら量産機ぃ!?あげなげてものどーすりゃぁ・・・(汗)
先が楽しみです(汗)、御見捨てでなければ(汗)続きをお待ちしておりますm(__)m

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Received Date: 98.07.29
Upload Date: 98.09.15
Last Modified: 99.02.17
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