REAL MIND 其の参    綾波補完委員会1周年記念連載

                    written by Radical



ゲンドウがリツコに泣き付いている頃、シンジとレイは自分の部屋の前に居た。
とりあえず外傷も無く、記憶以外は異常が見当たらないという事で退院したのだ。
当然部屋の場所も分からないため、ミサトが付き添っている。
レイの住んでいた団地はもちろん、コンフォート17マンションもサードインパクトの際に崩壊したため、 今は本部の敷地内にある官舎に住んでいる。
シンジ達が入院していた頃は、レイはマヤと2LDKの部屋で暮らしていたのだが、 シンジとアスカが退院するとレイも二人と同じ1LDKの部屋に移った。
ミサトは既に加持と籍を入れ、別棟で一緒に暮らしている。
はじめはゲンドウがシンジを引取るという意見もあったが、貴重な料理人を奪われたくないアスカと 単純にシンジと離れたくないレイ、 そしてシンジの精神的ストレスを指摘するリツコにより、その案は却下された。
そのことが決まった夜、司令室から野太い声でブツブツ呟く声が聞こえ、一部の者達から 怪談紛いの噂が立ったのは余談である。
ただ最近では週に何度か、時にはリツコやレイも交えて、食事会を開いていた。
もちろん、料理を作るのはシンジである。

「ここが俺の部屋か…」

シンジの前のドアには「Shinji」のプレートが付いている。
すぐ左のドアには「Rei」、右のドアには「Asuka」のプレートが見える。
さらにアスカの部屋の向こうには「Kaworu」のプレートが掛かり、このフロアは その4部屋だけとなっている。
シンジがドアを開けるのに躊躇していると、ミサトがスペアのカードキーでさっさと開けてしまった。

「相変わらず綺麗にしてるわね」

有無を言わせず勝手に部屋に入っていくミサト。
つられてレイも入る。
慌ててシンジも部屋に入った。

「へぇ〜、碇君って綺麗好きなんだぁ」
「・・・」

綺麗に片づけられたリビングには食器棚と冷蔵庫、テレビや整理棚が配置され、 中央には4人がけのやや大きなテーブルが据えられている。
片隅に積まれた雑誌には女性向けの週刊誌が混じっているのは、 アスカが持ち込んだものか。
奥に見える部屋にはベッドと机、ステレオセットが見える。
しかし視線を巡らせばもっとも眼を引くのはキッチンだろう。
カウンターでリビングと仕切られたキッチンにはさまざまな鍋やフライパンが並び、 正面の出窓スペースには所狭しと各種調味料が並んでいる。
ぴかぴかに磨かれたシステムキッチンは管理者の愛着すら感じさせる。
リビングのものより二回りほど大きな冷蔵庫は、普通のキッチンを小さなレストランの 厨房と錯覚させるかに見える。

「碇君・・・料理人でも目指してたの?」
「・・・」

レイの問いにも答えようが無い。
なにしろシンジ自身が呆気に取られているのだから。
苦笑しつつミサトが口を開こうとした時、ドアが開いた。

「シンジ、帰ってるの?」

勢いよく飛び込んできたのはアスカだった。
後ろにはポケットに手を突っ込み、微かに笑みを浮かべたカヲルの姿も見える。

「レイもミサトも一緒?アンタ達、もう大丈夫なの?」
「シンジ君、大丈夫かい?雷に撃たれたと聞いたときは気が気じゃなかったけど、 どうやら怪我も無く済んだようだね」

シンジもレイも突然の来訪者に戸惑っている。

「・・・どうしたのよ、ボーッとしちゃって。だいたいそんなだから雷に撃たれたりするのよ。 普段の行いの違いね」
「アスカ、弐号機は駐機体制に入っていたから、たまたま無事だっただけじゃ…」
「うるさいっ!運も実力の内よっ!!」

やれやれとカヲルは肩を竦める。

「でもキミまで入院するような事にならなくてよかったけどね」
「・・・フ、フンッ!」

カヲルのやわらかな眼差しに頬を染めたアスカは顔を背ける。
その先ではミサトがニヤニヤを笑っていた。

「な、何よ」
「別に。仲良き事は美しきかなってね」
「な、何言ってんのよ!」

そんなやり取りをボーッとしたまま見ているレイとシンジ。
その様子に気づいたアスカは途端に怪訝な表情になる。

「・・・なによ?アタシの顔になんか付いてる?」
「ミサトさん・・・」

アスカを無視してミサトに向き直るシンジ。

「何ですか、このうるさい女は?」
「なぁんですって!バカシンジのくせに生意気言ってんじゃないわよ!」

アスカの右手が閃く。
しかしシンジはこともなげに状態を反ってかわすと、体制の崩れたアスカの背中を ポンと押す。
アスカはそのままレイに抱き着くように倒れ込む。

「うるさい上に暴力的とは、始末に負えない女だな。そんなんじゃ、そこの優男に嫌われちまうぞ」

アスカは悔しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にさせて立ち上がると、烈火のごとく怒りはじめた。

「この!」
ブン!
「この!!」
ブン!!
「この〜!!!」
ブン!!!

アスカの繰り出す平手をことごとくかわすシンジ。

「いい加減当たりなさいよ!」
ブン!

「へぇ〜、シンちゃん、やるわねねぇ」

ミサトは意外そうに二人の攻防を見ている。

「シンジ君も訓練は受けてますからね。彼の場合は半分わざと受けていたんですよ。 アスカの感情を治めるために」
「シンちゃん、優しいからねぇ・・・」
「・・・じゃああのコ、いつもあんなカンジなんですか?」
「ま、そうね」
「元気があっていいだろ?」
「・・・」

にこやかに眺めるカヲルとミサトの横で、大粒の汗を張り付かせているレイだった。



結局シンジとアスカの攻防は、アスカが疲れてあきらめるまで続いた。
すっかり疲れきって、肩で息をしつつテーブルにへたり込んでいるアスカ。
その前には5人分の料理が用意されていた。
酢豚をメインにシュウマイや春巻・中華サラダ・卵スープなどが彩りよく並んでいる。

「今日は僕が当番だからね」

そう言ってカヲルがレイをアシスタントに作りはじめたのだが、アスカとの攻防に勝利したシンジが 「見ていてイラつく」と言って包丁を奪い、結局ほとんどを作ってしまった。
こちらはアスカと対称的に息一つ乱していない。

「記憶はなくても腕は変わらないのね〜。ホント、シンちゃんの料理はおいしいわ」
「本当においし〜。やっぱり料理人を目指していたんじゃないの?」
「やっぱりシンジ君にはかなわないね。この繊細な味付け、料理も心を潤す芸術だね」

口々に賞賛の言葉をしながらおいしそうに食べる3人。
誰も気づいてはいないが、レイも酢豚の肉をおいしそうに頬張っている。
その顔は至福の笑みを浮かべている。

「ガタガタ言ってねえで、冷める前に食え!」

キッチンからデザートのマンゴープリンを運んできたシンジが、 やや赤面しながら憎まれ口を叩く。
正直シンジも驚いていた。
自分やその周囲の事は何一つ思い出せないのに、なぜか料理の手順は浮かんでくる。
戸惑い、歯噛みしつつも、誉められれば悪い気はしない。
そんな自分の感情をもてあましているのだ。
シンジとレイの記憶の事は、シンジがレイを助手にキッチンで奮闘しているうちに 二人には説明されている。
そしてそのままご相伴に預かろうと、ミサトは居残っていた。
もちろんエビチュビールをカヲルに買いに行かせる事も忘れていない。
やがてアスカもムクッと起き上がると、猛然と食べはじめた。

「ねぇねぇ、カヲル君」
「なんだい?」
「カヲル君とアスカって付き合ってんの?」

レイの爆弾発言に飲みかけの烏龍茶を吹き出すアスカ。
その直撃を受けたシンジは怒りに肩を震わせている。

「僕はそのつもりだけどね」
「アンタ、何言ってんの!?」

アスカは勢い、カヲルの胸座を掴んでガクガクと揺する。

「だって、好きでもない人と一緒に帰ってきたりする?」
「そ・・・だ・・ね・・・」

揺すられながらも笑みを浮かべたまま応えるカヲル。
ここまで来るとたいした奴である。
しかしその返答はアスカの動きをさらに加速させる。

「だぁぁぁっ!いいかげんにしなさいよぉぉぉぉ!!」
「ア、アスカ・・・」

どうどうとシンジをなだめていたミサトが止めたときには、既にカヲルは落ちていた。



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作者Radicalの言い草:
どうも、Radicalです。
またもや個人的事情によりお待たせしてしまいました。
反省はしているんですが、何しろ思い付くままに書いていく困った奴なので、 広い心で見守ってやってください。
メールをいただきました竹内さん、何とか月イチには間に合ったと思います。
あとはmalさんの更新次第 (^^)
叱咤、激励、催促、感想のメール、心よりお待ちしています。


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Received Date: 98.10.26
Upload Date: 98.10.28
Last Modified: 98.12.06
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